会長挨拶


「レーザ技術の発展がもたらす “第4の波”」
“The 4th wave” induced by the development of laser technology

平成20年8月15日
中部レーザ応用技術研究会
会長    沓名 宗春


  アルビン・トフラーは1970年代に名著「第3の波」を著し、18世紀の産業革命から始まった第2の波を機械化社会とし、 ”メカニックス”を基盤とする産業基盤を説き、第2次世界大戦後のコンピュータを駆使した「情報化社会」を第3の波として説いた。 これは人間社会の基盤技術として発達し、メカトロニクス(機械+電子)が社会を変革する時代がきた。そして、この20世紀の 末期1990年代から21世紀にかけ、レーザ技術を中心とした光技術(フォトンテクノロジー)を駆使するオプト・メカトロニクス (機械+電子+光(レーザ))の時代、すなわち第4の波がやってきた。これらは第1の波(人力、畜力)の上に発達し、現代社会を いろいろと変革している。

 たとえば、私の専門である金属の溶接技術においても、第1の波として、古代エジプトやチグリスユーフラテス文明の時代は鋳ぐるみ溶接、 ろう付けおよびハンマー(人力)を用いた鍛接が実用化されていた。1885年にアーク溶接、1895年にガス溶接が、1907年に被覆アーク溶接が開発され、 それらが1930年代以降機械化され、機械化溶接が開発された。第2の波である。1970年代からはコンピュータを用いた溶接ロボットが開発され、 全自動溶接が実用化された。現在、国内だけでも約15万台以上溶接ロボットが昼夜を問わず働いている。これが第3の波である。1986年頃より、 ルーフパネルとドアパネルを3次元溶接するロボットとレーザ(光ファイバー付き)の生産システムが世界的に利用されるようになってきた。 第4の波である。ついに、2000年にはクライスラー社がロボットも用いないで、レーザビームをガルバノミラーで導光するリモートレーザ溶接を開発し、 ”JEEP”の後部ドアパネルを溶接する生産システムに導入した。リモートレーザロボットはベンツ社もラインに導入した。超高速(毎分20m~40m)の 溶接が可能である。まさに、光の特性を生かした溶接方法である。40年間、溶接工学に携わってきた私にとってはまさに隔世の感がある。

 レーザは20世紀の後半に急速に発展した新しい産業、すなわち原子力産業、宇宙・海洋開発産業、情報・サービス産業、新素材産業、 バイオ産業などと同様に、20世紀の知識(=科学技術)に基づいて発展してきた。これら多くの研究者や技術者は大学でなんらかの科学技術知識を 学んだ人々であったということである。たとえば、「レーザーはこうして生まれた」(C.H.タウンズ著、霜田光一訳、岩波書店)を読めば、 このことがよく理解できる。ここ20年間に電機産業、自動車産業、原子力産業などで急速にレーザ加工技術が発展してきた。 これ以外の産業でも各種レーザ加工が実用化されている。たとえば、2007年に就航したエアバス社のA380旅客機などにはスキンパネルと スティフナー(補強部材)の溶接にCO2レーザが用いられている。F15やF18戦闘機の機体部材(Ti-6Al-4V合金製)の製造では、従来の機械ミーリングから レーザ直接造形に変更されている。ジェットエンジンの機械部品の疲労寿命を延ばすためにレーザピーニングが軍用機や旅客機に適用されている。 また、欧州や米国の造船業では船殻パネルのレーザ・アークハイブリッド溶接やレーザ溶接で製造した軽量薄板パネルが実用化されている。 今や、電子部品の微細加工から長さ30mの航空宇宙機器の大型部材の曲げ加工まで、レーザ加工を実用化しようと世界各国で、研究・開発が進んでいる。 私が訪問した欧米の工業先進国のみならず、中進国や開発途上国でも今やレーザ技術は国を挙げて、開発されている。中国、エジプト、南アフリカ、 メキシコ、台湾、韓国など自動車や電機機器などを生産する国々ではレーザ技術は不可欠な技術となっている。いずれの国も、今後、最新レーザ利用生産システム (Advanced Laser Integrated Manufacturing System = ALIMS アリムス)の開発こそ、大きな国家的、産業的な開発テーマとなるであろう。


ページのトップへ戻る